帰国の準備をする

と書いてすぐ、ああ帰国じゃなくて出国だなと思うのだが、自分の心持ちとしてはすでにアメリカに「帰る」という意識が先行してしまう。もちろん日本にも「帰る」わけだが、それはまた別の類の「帰る」である。どちらかというと、日本というのはすでに僕にとって過去のものになりつつあり、自分が所属していた何かに「戻る」、懐かしさを帯びた要素が強いが、アメリカは現在働いている場所に「戻る」ニュアンスがある。いずれにせよ、自分にとってはどちらも「帰る」場所である。

今回の滞在も、楽しかった。「も」というのはやや語弊があり、昨年夏の帰国は、正直、暑すぎてリラックスなんてものじゃなかった。あの暑さなら、中西部なり東海岸でゆっくりしている方が精神衛生上はずいぶんといいだろう。僕が意図していたのは、今年の冬の帰国も、昨年の冬の帰国と同じくらい、楽しかったというものである。

帰国(手続き的には出国)まで思い残すことはあるかといわれると、全くない。もうアメリカに戻ってもいいくらいである。肌感覚としては、2週間すぎてくると、ああ、十分帰国したな、という感じになってくる。1週間目は肌をお湯に浸からせて体温を上げるフェーズで、2週間目は会いたい人と会って、話したいことをざっくばらんに話す期間、そして3週間目はリラックス期間で、だいたい3週間休むと一時帰国も飽和状態になってくる。

一時帰国時にやることはだいたい、というか思いつく限り全て済ませた。地元では、20年以上通っている床屋で髪を切り(昨年末からいよいよ値上げした)、これも20年前からお世話になっている歯科でクリーニングをし(親知らずがあると脅された)、行きつけの寿司屋とパスタ屋に行き、親戚と話し(というか話を聞いているふりをし)、墓参りをして、近所の書店に何回か行って適当に文庫や雑誌を買い、その本を近所のスタバで読み、何か面白い展示があれば水戸芸術館に行く(今回はなかった)。あと、スーパーでネストビールを買って、家で飲む。これが、うまい。

東京では、学部時代の社会学関係の同期と飲み会をして(これは、マスト)、その他、学部時代の(社会学とは縁もゆかりもない)友人や共同研究をしている人に会い、彼らとコーヒーやお酒を飲み、奨学金をいただいている財団の懇親会に出て、こくわがたに行き、研究室に寄って(多分そろそろ迷惑なのでやめようと思うが)、学部時代の指導教員に挨拶をして、寄ってみたかった展覧会や、お店を訪れる。今回は三菱一号館の印象派展に行き、また久しぶりに川菜館にいけて幸せだった。あと、弟との東京観光も一時帰国中の決まり事である。夏はこれらに加えて、どこかで野球観戦をする(ビールを飲みたいので)。いつか、昔住んでいた吉祥寺にも行ってみたいが、これは今回叶わなかった。冬の井の頭公園は、旬を過ぎた寂しさもあり、好きなんですけどね。そういえば、今回の一時帰国が初だったのですが、温泉に行くというのも、今後の予定に加わりそうです。

そして、最後に成田空港行きのバスのチケットを買って、帰国の途につくのだ。今までは、お決まりの成田→シカゴのJL10に乗っていたのだが、次からはJFKを目指す赤い会社のJL4か、あるいは青い会社の何かになるだろう。昔は青い方が好きだったし、今でもマイルはそっちの方がたまりやすいのだが、ちょっと最近は、青い方が日本文化を強調しすぎなのと、あと機内の性別分業がちょっと旧来すぎで、もっといえば接客が丁寧すぎで、居心地が悪く、赤い方が好きになっている。赤い方のマイルは、適度に接客が雑で、適度に遅れ(AAと共同運行だからか)、ご飯も適度にまずいが、機内のエンターテイメントはAAと共同運行の強みを出して充実しているし(といっても、プリンストンに来てからは映画も見るようになったので、あまりみたいのはないのだが)、なによりマイレージが片道航空券の予約でも使えるのが、最大の強みだったりする。こうすると、片道だけ、具体的には疲れが激しいアメリカから日本への便だけビジネスクラス、といった選択ができるのです。